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サスペンス映画なのに前半で黒幕が分かってしまう『顔のないスパイ』

タイトル通りのスパイ映画ですが、こちらの映画少し変わっていて、前半で謎の黒幕が分かってしまうというどんでん返し。しかし、最後にはまた意外などんでん返しが待っています。

監督は『3時10分、決断のとき』『ウォンテッド』で脚本を務めたマイケル・ブランド。この作品が監督してのデビュー作となります。しかし、その後はTVシリーズを撮っていますが、目立った活動はありません。元脚本家だけあって、ストーリー展開は飽きさせないつくりの映画です。

主演は『アメリカン・ジゴロ』『愛と青春の旅立ち』で人気を博したリチャード・ギア。甘いマスクでおっとりしたイメージですが、今作では元CIA捜査官という役に扮します。アクションやカー・チェイスもあるのですが、飄々とこなす姿がコミカルでもあります。

激しく罵るシーン、殴り合いをするシーンもありますが、やはり出ているのが、リチャード・ギアの色男感。いい男性は、歳をとってもいい男のままなのですね。

相棒のFBI捜査官を演じるのが、トファー・グレイスという若い俳優です。今作ではとてもいい味を出しているのですが、俳優としての活動はあまり目立っていないのが残念です。もっと売れてもいい俳優と思うのですが…。

そして、CIA長官役に『地獄の黙示録』でウィラード大尉を演じた名優のマーティン・シーン。恰幅のいい「おじいちゃん」のようになっていて、少し驚かされました。今作で最後に「質問があるのだが…」というセリフに深い意味があるのか、ないのか?ネット上でも話題になりました。

日本人には、ピンとこないのですが、この映画では、CIAとFBIが捜査協力をするという内容なのですが、「こんなことがあるのか?」「時代は変わった!」など、ストーリー以外でも話題を集めました。

物語は、アメリカとメキシコの国境線を密入国するグループのシーンから始まります。この中に物語のキーマンがいるのですが…。正直申しますと、このシーンは果たしているのか?という疑問もあります。このシーンがなくても、物語の展開上問題ないと思います。少し蛇足気味の感じも受けました。

その半年後、FBIが内偵を進めていたロシアとの密接な関係があるダーデン上院議員が暗殺されます。その手口は、ソビエトの伝説的なスパイ【カシウス】と同じもの。しかし、カシウスは死んだはずでした。

CIA長官は、引退した捜査官ポール(リチャード・ギア)を呼び戻し、若きFBI捜査官ギアリー(トファー・グレイス)とチームを組ませます。

ポールは現役時代カシウスを追い続け、カシウスは死んでいると主張。ギアリーは、手口からいってカシウスに間違いないと主張。二人の意見は対立したまま、コンビを組むことになります。

二人はカシウスの一味であったブルータスという男に会うために刑務所に足を運び、情報の提供の代わりにラジオを提供するのですが…。

ここがまだ映画の前半。しかし、いったんここで大きなどんでん返しを迎えます。黒幕カシウスのことを知ってしまった観客は、唖然とします。そのままテンポよくストーリーは展開しますが、いま一つ腑に落ちないまま。

ところがもう一度驚く展開を迎え、ここでこの映画の原題『The Double』の本当の意味が分かるのです。後味がいいような、悪いような曖昧なエンディングを迎えるところも、他のスパイ映画とは少し違った感じを受けました。

この映画をハッピーエンドと感じるか、バッドエンドと感じるかは、個人の感性なのでしょう。これが監督、製作側の意図なのか、そうでないかは分かりませんが…。

思わずコワい、コワいを連発してしまうスリラー『ヴィジット』

ホラー、オカルトなど、超常現象を扱った映画は多数あります。人を恐怖の中に陥れコワさを与えるための映画です。しかし、心底コワいと思わないのは、それがありえない架空の物語だと分かっているから。一種のアトラクションのようなもの。

その場で、「キャー」っと叫んでストレスを発散し、映画が終わったら、食事をしながら「怖かったね」と笑顔で会話できる作り物。最近では、コワさよりも、リアルな痛みを見せたり、グロさを見せたりと、ヴィジュアルにこだわった映画が多くなりました。

今回、ご紹介する映画『ヴィジット』は、本当にコワいです。映画を観ている間、思わず「コワい、コワい」を連発してしまいます。できれば、お一人で観ていただくことをお勧めします。

監督は『シックス・センス』『ヴィレッジ』のナイト・シャラマン。『シックス・センス』のできが良すぎたせいで、その後の作品が常に比較され、不発続きだったシャラマン監督が、自ら原点回帰を掲げて臨んだ作品です。

話題づくりが得意なシャラマン監督、公開前の予告編映像で自身がラストに登場するという異例のもの。そして、メッセージを送るという入れ込みようでした。そのメッセージは「あなたはすでにだまされている」というもの。いやでも期待が高まります。

お気に入りの俳優を使いたがるシャラマン監督ですが、今作の出演者は日本ではほぼ無名の人たちばかりです。それも出演者数がとても少ないのです。

ただし、プロデューサーが『パラノーマル・アクティビティ』『インシディアス』などのホラー作品を得意とするジェイソン・ブラム。シャラマン監督との初タッグで組んだ本格的スリラーとなりました。

撮影方法も特殊なものでした。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のような、演者が持つビデオ・カメラが物語の進行を進めていく手法ですので、よりリアルに恐怖を体験することができます。

ストーリーは、シングル・マザーの母のドキュメンタリーを撮影するため、姉弟がビデオ・カメラを持って母の故郷へ行くというものです。その撮影している視線をそのまま観客が観ることになります。

休暇を利用して祖父母のペンシルベニア州メインビルに向かう姉弟。しかし、母は若いころ家出をした立場なので、二人は祖父母のことを全く知らない。姉弟はビデオとパソコンを持ち、母の生い立ちを探る旅に出るのです。

駅に迎えに来てくれた優しい祖父と祖母。携帯もつながらない田舎町の一週間が始まります。母の生家に着いた二人は、祖父母から3つの約束を与えられます。1つ目は【楽しい時間を過ごすこと】、2つ目は【好きなものは遠慮なく食べること】。そして、3つ目は【夜9時半以降は部屋から絶対に出ないこと】。

やがて祖父母のおかしな言動が気になり始める二人。宇宙人を見たという祖父。暗闇さんがいるという祖母…。何かがおかしいのだが、スカイプで連絡をとる母は「歳のせいだから」というのですが…。

本当にコワいです。二人の子供が、抵抗できそうで、できないジレンマ。罵りたい気持ちを抑えている我慢が、観ている側にも伝わり、手を差し伸べたくなるのですが、どうしようもない焦燥感を味わうことになります。そして、どんでん返しを迎えこの映画の本当のコワさ知ることになります。

また、正直なところ差別用語がたくさん出そうな場面もあるのですが、決してそういった言葉を使わないところも現代の映画らしいところです。

知りたくない事実を知ってしまうどんでん返し『パッセンジャーズ』

全編を通して流れる寂しく悲しい音楽。ストーリー展開はサスペンスでもあり、ラブロマンスでもあり、そして、どんでん返しを迎え、物語の真相を知ったときにやるせない悲しい気持ちになります。

しかし、この映画を再度観ようとすると、とても優しい気持ちで観てしまいます。こういう映画こそ、予備知識を持たずに素の状態で観てほしいものです。見事な脚本です。

『パッセンジャーズ』とは旅客機の乗客を意味します。飛行機事故で生き残った人々の葛藤、航空会社の隠ぺい工作など、たくさんのテーマを抱えながらも、多くの点が一本の線になったときに驚愕します。

飛行機事故という一見大掛かりな事故描写をさらっと見せて、登場人物のその後に焦点を当てるという手法で、サスペンス調に見せるシナリオはおもしろいアイディアでした。

監督はコロンビア出身のロドリゴ・ガルシア。あまり日本には馴染みがありませんが、ラブ・ストーリーや人間ドラマが得意の監督のようです。今回の『パッセンジャーズ』も、そのあたりをとても見事に表現していました。

主演は『プリティ・プリンセス』シリーズ、『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウエイ。『ダークナイト ライジング』では、アクションもこなし、すっかりハリウッドのトップ女優の地位を不動のものにしています。

今作でもアン・ハサウエイの魅力が全開です。まさに体当たりの演技で観る者を魅了してくれます。彼女を観るだけでも、この映画を観た価値があると思えるほど、素晴らしい演技を見せてくれます。

『死霊館』シリーズ、『インシディアス』シリーズで、最近オカルト映画の出演が多い、パトリック・ウィルソンが、飛行機事故の生存者の一人で、アン・ハサウエイ演じるセラピストのクレアに好意をよせるエリックを演じます。色男ぶりがぴったりです。

旅客飛行機の墜落事故が発生。奇跡的に5人の男女が生き残ります。その5人の精神的ストレスを治療するため、クレアは恩師からセラピストに命じられます。クレアは5人のグループ・カウンセリングを提案するのですが、エリックはそれを拒否し、個別のカウンセリングを希望します。

カウンセリングで得た証言から、事故はパイロットの人的ミスで起きたとする航空会社の発表と異なる証言を得たクレアは、事故は航空会社の過失であり、その隠ぺいがされようとしているのではと疑いを持ち始めます。

不審に思ったクレアは、事故の真相を探ろうとしますが、生存者が一人、また一人と消えていくこと気が付きます。そして、クレアは個別カウンセリングをする間にエリックとの愛が芽生え始めてゆくのでした。

信頼していた上司もがクレアの推測を否定し、信じられる者もいなくなっていくクレア。一人事故現場に戻り、真実に近づくエリック。やがて、航空会社のアーキンがクレアの前に現れて、「あの事故はパイロットの人的ミスだ」と改めて忠告し、ある物を置いて去っていきます。

彼が置いていった物、それは乗務員用のカバン。そして、その中にあったものは…。そして、クレアは事故の真相を知ることになるのです。アン・ハサウエイの迫真の演技に涙し、一気にエンディングを迎えます。

サスペンス映画でありながら、実に穏やかなエンディングを迎え、いい映画を観た…そんな気にさせてくれます。日本人の感性に合った結末なのかもしれません。こちらは二度観をおススメの映画です。一度観たあと観ると全く別テーマの映画にみえてきます。

主人公とともに悩む、映画の全編がどんでん返しの『メメント』

もう大変な映画です。なにがどんでん返し、なにが事実で、なにが目的で…もう何もかもが分からないことだらけの映画です。その分からないことは、実は主人公の思考でもあるのです。映画好きな方なら、一度は観たことのある映画でしょう。

タイトルの『メメント』とは、思い出、記憶といった意味を持っています。この映画の主人子は前向性健忘という、数十分前の記憶を忘れてしまうという記憶障害の持ち主。その主人公が妻を殺した犯人を見つけ出すという、とてもハードルの高いミステリー映画です。

観客は主人公の立場に立たされ、事件解決のために前に進んだかと思えば、記憶が消えての繰り返しで、味わったことのないジレンマを感じることになります。おまけに脚本の時間軸が…。という難解なストーリーとなっております。

監督は『インセプション』『ダークナイト』シリーズのクリストファー・ノーラン。原作は、実弟ジョナサン・ノーランの短編小説です。しかし、よくぞこれを映像化したものだと感心します。ノーラン監督、自身2作品目の作品です。ノーラン監督はこの作品で数々の賞を受賞、ノミネートされ、一躍注目を浴びることになります。

主演は『タイムマシン』『不良探偵ジャック・アイリッシュ』シリーズのガイ・ピアーズ。記憶を失う主人公レナードに扮し、難しい役どころをものの見事に演じております。

そして、『マトリックス』シリーズのキャリー・アン・モスが主人公レナードを助ける(?)ナタリーを演じますが、このナタリーという女性が敵ではないのですが、味方とも言いきれない役どころ。

レナードは、自宅に強盗一味が入り、妻を殺害されてしまいます。レナードは犯人の一人を銃で撃ち殺すのですが、別の犯人に突き飛ばされ、その外傷と妻の死に対する衝撃が原因で、前向性健忘という記憶障害を持つようになってしまいます。

この障害は、発症以前の記憶は残っているのですが、それ(この事件)以降の記憶は数十分もすれば忘れてしまうもの。発症前にわずかな記憶を頼りに、レナードは妻を殺害した犯人に復讐を誓うのだが…。

失っていく記憶を残すためにレナードは、なにかあればポラロイドカメラで写真を撮り、メモを書き込む。そして、必要な情報は体にタトゥーを入れ、断片となった記憶を繋ぎ止めていきます。

体に刻まれた『ジョン・G』のタトゥー。この名前が犯人の名前らしい。この名前を追ってレナードは犯人を追跡していくのですが、謎は増えていくばかり、本当の味方はだれで、敵はだれなのか、そして事件の真相はどうなっているのか?主人公レナードとともに観客はフラストレーションが溜まっていきます。

走っているレナードが「今俺は追いかけているのか?それとも追いかけられているのか?」と自問するシーンがあり、なんともやり切れない思いをし、レナードに声を掛けたくなってしまいます。

やがて、観客には事件の真相が分かり驚くことになります。しかし、レナードはそれさえも記憶に残らず、やはり犯人を探し続けることになるのです。事件は解明されたように見えるのですが、実は謎が増えてしまったような…。巧みな脚本で、観客は騙されっぱなしなのです。

どんでん返しも何も、映画全編がどんでん返しの繰り返しで、どこを騙されているかさえも分からない…という衝撃の映画です。クリストファー・ノーラン監督にしてやられたという感じになります。