ストーリーもさることながら、役者の役作りの凄さ、本気度を味わえる作品です。まさに命懸けの役作りです。別に激しいアクションや危険なシーンがあるわけではありません。ただただ、まさに身を削る姿に脱帽します。

演技が上手いだけではなく、体を変身させるほどの強烈な役作りができてこそ一流の役者の証なのでしょう。あまりの凄さにストーリー展開の凄さがかすむほどのインパクトを受けます。

人間は追い詰められた感情と罪悪感によって精神だけではなく、姿までもが変化することをヴィジュアルで表現した驚愕のサスペンス。1年間不眠の男が体験した狂気、さらに奇妙な暗号が謎を増幅します。

この奇抜な物語を創り上げた監督は『ザ・コール緊急通報指令室』のブラッド・アンダーソン。サンダンス映画祭、ベルリン国際映画祭などで絶賛されたサスペンス映画を完成させました。

そして、狂気とも思える演技で観る者を圧倒したのは『ダークナイト』シリーズのクリスチャン・ベイル。体重を30kgも減量し撮影に臨む姿は、まさに命懸け。スタッフからは、これ以上の減量は危険だとストップされてしまうほどでした。

不眠症で1年もの間眠れずに、病的とも思えるほど痩せ衰えていく男、暗号めいた張り紙など、その男の周りでは奇妙なことが起こり始めます。

工場で機械工(マシニスト)として働くトレヴァー(クリスチャン・ベイル)は、極度の不眠症で365日間眠っていません。それが原因なのか、体は痩せ衰えて、まさに骨と皮だけの姿です。

ある日、トレヴァーは休憩時間中、車のシガレット・ライターでタバコに点火したとき、アイヴァンという溶接工に話し掛けられます。それ以来、トレヴァーの周りでは奇妙なことが起こり始めます。

トレヴァーは仕事中、アイヴァンに気を取られ間違って機械の電源を入れてしまうのです。それによって、同僚のミラーは機械に手を挟まれ、手を切断する事故を起こしてしまいます。しかし、工場のだれもがアイヴァンの存在に気が付いていないといいます。

彼は事故の件以来、同僚との折り合いが悪くなり、会社を解雇されます。トレヴァーは何者かが自分を陥れようとしていると疑い始めます。日々変化する謎のメモ、そのメモには不思議な記号や書かれているのだが、意味が分からないまま。

トレヴァーはアイヴァンを再び見かけます。アイヴァンの正体を確かめるため乗っている赤い車のナンバーを突き止めるのですが、その車を登録していたのは、トレヴァー自身。混乱したトレヴァーは、アイヴァンを見つけ出し、殺してしまうのでした。

トレヴァーの妄想や幻覚なのか、日々変化する謎のメモ。時刻を示す1:30。ルート666、愛読書の『白痴』、機能しない冷蔵庫、魚の頭など、一見関連のなさそうな不可解な点同士のアイテムが、実はすべて繋がりを持っています。

そもそも、なぜ眠ることができなくなったのか。アイヴァンの正体は?そして、関係なさそうな登場人物の一人一人も実はすべて線で結ばれます。ことの真相を知ったとき、人間の心の弱さ、最後の良心の壁など、疲労感が押し寄せます。

どんでん返しを迎え、人間の心の複雑さを知ることができますが、きっと一度の鑑賞では完全に解読できないと思います。