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新しいゾンビ系映画の誕生に賛否が分かれた『REC/レック2』

ゾンビ系映画を大別すると、死者が甦るいわゆる本家ゾンビ映画と、『28日後…』などウィルスなどが感染して人間がおぞましい姿になり凶暴化するエピデミック映画があります。今回紹介する『REC/レック2』は、また新たな新種のゾンビ系映画となります。

前作『REC/レック』は、エピデミック系映画として予想外にヒットします。そして、その続編にあたるのが今作ですが、まさに序盤で「えっ!?」と予想を大きく裏切る大どんでん返しを迎え、前作からの流れを根底から覆すことになります。なので、当然前作『REC/レック』をご覧の上、お楽しみください。

シリーズは日本ではあまり馴染みのないスペイン映画ですが、世界的にヒットし、ハリウッドでリメイクされています。第1作目はオリジナル・スペイン版に忠実に作られており、ほぼ同じ内容となっておりますが、第2作目は全く異なる路線となっております。

お国柄でしょうか、今回のオリジナル続編があまりに衝撃的な展開なので、ハリウッド版はリアルな脚本を独自に起こしたようです。同じ内容の前作なのに、ここまで異なる続編ができあがるのも見比べてみると面白いかもしれません。それでも両作とも前作の流れを踏襲しているところに感心します。

またこのシリーズの特徴は、POVショット(視点ショット、主観ショット)を採用しているところです。これは、登場人物の視線や身に付けているビデオ・カメラの視点がそのまま観る側に伝わる撮影方法です。劇場などの大きな映像を観ていると船酔いのような症状を起こす人も出てきます。

登場人物が撮影する映像がそのまま視界に飛び込んできますので、逃げることのできない恐怖感が倍増します。そして、画域が小さいので前後左右上下の状況がよく分からないことも怖さを増幅させます。

監督は、前作に引き続きジャウマ・バラゲロ。3作目では、製作、4作目で再び監督を務めます。また、ハリウッド版では脚本を務めています。

出演者は、馴染みの少ないスペイン映画ですので、ほぼ知らない人たちばかりです。だから余計に、リアル感が増すのでしょうか。演技とは思えない迫力で、観る側を圧倒します。

オープニングは、前作のラスト・シーン。今作が完全な続編であることを強調します。あの後味の悪いエンディングを再び観ることができます。

前作では、ウィルスに感染した人間が凶暴化し、次々と人間を襲い、襲われた人間がまた凶暴化することで感性が拡大していくエピデミック映画でした。さらにその惨劇が起きるのはバルセロナ郊外の古びたアパートという狭い空間のみ。今作は、そのアパートの外から展開します。

事件の起きたアパートの外は、警察、消防、機動隊などが完全に包囲され、隔離された状態になっています。感染の原因究明をするため、医師のオーウェンと重装備の4人のSWATチームがアパート内部に入ります。

しかし、アパートに入るとオーウェンは、すぐに防護マスクを外してしまいます。「空気感染はない」と、SWAT隊員に告げます。オーウェンは、すでに何かを知っていて、それを隊員たちには隠している…?

すぐに隊員の一人がゾンビに襲われ、彼も同じく凶暴化していきます。しかし、オーウェンは落ち着いて対応し、襲われた隊員を部屋に閉じ込めてしまい、残りの隊員に衝撃の真実を伝えるのです。

序盤ですでに大どんでん返しを迎え、未だかつてないゾンビ映画の展開にSWAT隊員も、観客も茫然とします。その後は、SWAT隊員の視点まま、観客も逃げ惑い、さらに衝撃のエンディングを迎えます。

新たなゾンビ系映画に賛否分かれましたが、どんでん返しとしては非常に斬新な映画です。

アナログの迫力と登場人物すべてが信じられない『アラベスク』

1966年製作。今から50年も前のない映画なのです。当然、CGなどの特殊効果はありません。それゆえ、アナログの迫力があります。ストーリーは二転三転し、ノンストップで観ることができます。

タイトルの『アラベスク』とは、壁画に描かれた文様を意味します。この映画においては、象形文字で書かれた謎の『暗号』を指します。その暗号をめぐって、解読と真相を追求するサスペンス映画です。品のいいイギリス映画と思えば、アメリカン・ジョークも飛び交ったり見応えは十分です。

いったいだれが味方で、だれが敵か?そして、暗号の意味は?登場人物が常に嘘をついていて、観ている側も騙され続けます。舞台はイギリスなのですが、主人公はアメリカ人。50年前の作品とは思えないほどアメリカ人らしい軽妙なトークも古さを感じさせません。

監督は、『雨に唄えば』『シャレード』などの名作を手掛けたスタンリー・ドーネン。御年92歳。1988年には、アカデミー名誉賞を受賞し、壇上でタップダンスを披露して話題を集めました。

主演は『ローマの休日』『大いなる西部』など、数多くの名作に出演を果たしたグレゴリー・ペック。今作では、オックスフォード大学で考古学を専門とするポロック教授の役をこなします。軽妙なトークを連発するアメリカ人らしい側面を見せてくれます。

そして、『ひまわり』『エル・シド』で、永遠の美女ソフィア・ローレン。アニメ『ルパン三世』の峰不二子のような立ち回りで、敵なのか味方なのか分からない謎の女の役を演じます。あまりの美貌ゆえ、味方にも見え、逆にとても悪い女にも見えてきます。ソフィア・ローレン演じるヤスミンのファッションにも注目です。

大学教授が象形文字の暗号を解読するために、暗殺事件に巻き込まれて翻弄されてしまうサスペンス映画でありながら、ポロックとヤスミンが惹かれ合っていく姿にも注目です。

ある日、眼科を訪れた大学教授が何者かに襲われ、メガネに隠された暗号の描かれたメモを盗まれてしまいます。その暗号は古代象形文字で描かれています。

オックスフォード大学の古代史教授ポロックは、大富豪ベシュラービから象形文字で描かれた暗号の解読を依頼されます。しかし、ポロックはそれを断ります。

ところがある日、ポロックは車で拉致されてしまいます。拉致したのは、中東にある国の首相。首相は、ポロックにベシュラービからの依頼を受け、ベシュラービをスパイするように頼みます。しかし、それは危険な仕事であることも付け加えます。

ポロックは首相の依頼を受け、ベシュラービの豪邸に滞在することになります。しかし、そこにいた謎の美女ヤスミンが、暗号の解読が済んだら殺されてしまうことを警告します。

暗号の書かれたメモを手にした二人はベシュラービの豪邸から脱出することに成功するのですが、実はヤスミンは別の組織のスパイであり、ポロックは殺されかけます。間一髪逃げたポロックの元に、再びヤスミンが現れるのだが…。

後半は派手なアクションもあり、日本の刑事ドラマのようなシーンもみられますが、暗号の書かれていたメモの解読など、サスペンスとしての面白さも目が離せません。登場人物の立場が二転三転するなど、50年前の映画もなかなか侮れません。

たった一人で月で過ごす男が体験する不可解な現象『月に囚われた男』

撮影期間わずか33日間、インディーズ映画並みの予算はたった500万ドル。しかしながら、サイエンス・フィクションとしては、あくまでも理にかなった現実的な脚本として、NASAも注目しました。

低予算上、登場人物及びセットを最小限に抑え、CGを多用することなくミニチュアを用いるなど涙ぐましい撮影。しかし、月、宇宙の研究を重ねることで、チープな演出とならず、リアル感のある作品に仕上がっています。

監督はダンカン・ジョーンズ。先ほど亡くなられたロック歌手デヴィッド・ボウイの実の息子です。今作が長編デビュー作となります。この作品でイギリス・アカデミー賞新人賞受賞、作品賞ノミネートなど、数々の賞を受賞します。

そして、この後、『ミッション:8ミニッツ』『ウォークラフト』を立て続けに監督します。『ミッション:8ミニッツ』はどんでん返し映画として面白い作品となっています。

完成当時は、劇場公開をせず、直接DVD販売の予定だったのですが、各映画祭で好評を博し、急きょ劇場公開作品となりました。

主演は、『チャーリーズ・エンジェル』『コンフェッション』のサム・ロックウェル。登場人物はほとんど彼一人のため、全編を通じて彼の一人芝居となっています。

また、月面で一人取り残されている主人公を補佐する人工知能ガーディの知的な声を、『セブン』『ユージアル・サスペクツ』のケヴィン・スペイシーが務めます。

低予算映画とは思えないほどのリアルで、深いストーリーを堪能できる作品に仕上がっています。そして、近未来ありえるかもしれない余韻と怖さを与えてくれます。

地球から遠く離れた月で、たった一人で仕事に従事する男が体験する奇妙な現象に遭遇するSFスリラー。真実を知ったとき、主人公とともに観客はうなだれることになります。

サム(サム・ロックウェル)は地球で必要なエネルギー源ヘリウム3を採掘するため、ルナ産業との3年契約のためたった一人で月面基地サランで滞在することになっています。衛星に故障が生じ、地球との交信もできず、孤独にさいなまれています。話し相手は、人工知能ガーディのみ。

仕事内容は、燃料を採掘し、ポッドに詰め地球に送るという単調なものです。しかし、その任務も残り2週間となります。地球に戻ることを拠り所に仕事に従事しています。ところが、サムはそのころから体調を崩し始めます。

それでも頭痛やめまいが起きながらも仕事に従事します。そして、月面ローバーを運転していたとき、事故を起こし、気を失います。目を覚ますと基地内の診療室だったのです。ところが、たった一人のはずの基地に別の人間がいることを知るのです。

なんとその男は、自分と同じ顔の人間…。幻覚なのか?現実なのか?自分の身に何かが起きているか?しかし、男は話すこともできる、幻覚のようには思えない。そして、サム自身よりも若く気が短い。彼は自身のクローン?しかし、なぜ?

サムはますます体調が悪くなりながらも、今起きていることが現実か、空想なのかも分からないまま、謎を解き明かすため、基地内を調べ始めることに…。やがて、予想が覆されるどんでん返しを迎えることになります。

観なければ良かったと思うほど後味の悪い『オールド・ボーイ』

ハリウッドでリメイクまでされた韓国映画なのですが、原作は日本のマンガ。観たことを後悔するほどの後味の悪い作品です。悪い映画ではないのです。凄い映画なのですが、どうもずっしりと嫌な余韻が残ってしまう内容です。

ところどころに目を覆いたくなるような残虐なシーンもあります。しかし、そういった視覚の不快さもさることながら、だれも得をしない、だれも勝つことのない人間の不条理を見せつけられ、観終わったあとに残る疲労感。少し覚悟をしてご覧ください。

週刊漫画アクションで掲載されていた土屋ガロンと嶺岸信明の『ルーズ戦記オールドボーイ』を2003年に韓国で映画化、2013年にハリウッドでリメイク映画化したものです。原作と映画版の動機付けに大きな違いがあります。

また、映画では韓国版、ハリウッド版のそれぞれに多少の差異はありますが、大筋はほぼ同じ内容です。どんでん返しは、事の真相なのですが、ただし、ラストは、両者それぞれ異なります。どちらがいいのか、悪いのかは観た方の主観でいいと思いますが、どちらも後味はよくありません。

監督は、韓国版を【復讐三部作】、【人間でない存在の三部作】のパク・チャヌク。ハリウッド版を『インサイドマン』のスパイク・リーが努めます。

主演は、韓国版を『悪魔を見た』『シュリ』のチェ・ミンシク。ハリウッド版を『ノーカントリー』『ブッシュ』のジョシュ・ブローリンが演じます。

長年監禁されてきた男がその理由を探るため、復讐を遂げることを決意し、謎の解明をしていくという展開です。いったいなぜ長い年月監禁されてきたのか、殺されることもなく、ただ監禁され時間を奪われた男の復讐劇です。

そして、この映画の怖さは、人間の記憶の曖昧さをも訴えていることです。自分にとっては、気に留まることのない何気ない言動が人によっては恐ろしい結末を生んでしまうこともあることを訴えています。しかし、本人はそんなこと記憶にもない。そう、ただ単に忘れてしまっているのです。

泥酔状態のある夜、主人公の男は、行方不明になります。気が付くと、ホテル一室のような部屋。そこにはベッド、テレビなど、生活するには不自由のない部屋。ただし、出ることはできません。監禁されてしまったのです。

訳も分からず監禁された年月は、韓国版は15年、ハリウッド版は20年。そして、ある日、何の前触れもなく突然解放されます。ボストン・バッグに詰められ気が付くと、見知らぬ草原。解放されたのです。

男を監禁した首謀者は、「なぜ監禁されたか、5日間で答えを出せ」とメッセージを伝え、解放された男にヒントを与えていきます。そして、謎が解けたら自分が死に、解けなければ殺すというゲームに巻き込まれることになります。

わずかなヒントを頼りに、主人公は徐々に真相に近づいていきます。そして、事の発端は高校時代にまでさかのぼります。首謀者の姿が見えてくるのですが、しかしそれでも、長年監禁されていた理由にはたどり着きません。なぜ15年(20年)なのか…。

首謀者にたどり着いたとき、彼は主人公に言うのです。「なぜ監禁されたか?の質問は間違っている。なぜ解放されたか?と質問するべきだ」と…。

すべての真相が分かったとき、考えたくない残酷などんでん返しが待っています。ご家族、特にお子様とはご一緒に観ないようにしてください。