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日本代表『チ・ン・ピ・ラ』

洋画を中心にどんでん返し映画をご紹介してきましたが、邦画の中にもどんでん返し映画はたくさんあります。その中でも、最後にスカッと終わるどんでん返し映画をご紹介したいと思います。

本物のヤクザになりきれない、毎日を自由きままに生きる二人のチンピラの苦悩と友情を描いた『チ・ン・ピ・ラ』。痛快などんでん返しをご堪能ください。1984年製作。

原作は、映画『竜二』でその天才ぶりを見せつけた金子正次。彼は『竜二』公開1週間後、33歳の若さで松田優作らに看取られて胃癌で亡くなります。その6年後同日、松田優作も癌で亡くなります。

『竜二』の撮影当時、資金難や現場の混乱で当初の監督が降板。弁当の手配など雑用(実際はプロデューサー)を引き受けていた川島透が監督を急きょ監督を務めることになります。現場では、「明日から弁当屋のオヤジが新しい監督になる」と大騒ぎだったといいます。

その弁当屋のオヤジの川島透が、この『チ・ン・ピ・ラ』の監督。監督しては、『竜二』の引き継ぎから、わずか2作目。メジャーに縛られていない生き生きとした映像が印象的です。この作品で川島透の名は知れ渡ります。人生何が起こるか分からない、これさえもどんでん返し。

出演は、『あぶない刑事』シリーズの柴田恭兵。元キャロルのジョニー大倉。二人のチンピラ・コンビが渋谷の街を舞台に走り回ります。

オール渋谷ロケのこの作品。今では考えられないゲリラ撮影も敢行され、一般の人たちの反応が映画に緊迫感を与えます。渋谷駅の高架に書かれている[ JR渋谷 ]の文字が、まだ[ 国鉄渋谷 ]になっているところなど、80年代の元気な日本を思い出します。

二人組のチンピラ、洋一と道夫は、ライブハウスにいます。道夫は周りを気にせず自分勝手に踊り続け、洋一は一人グラスで酒を飲んでいます。道夫の踊りにケチをつける三人の男。しかし、道夫は気にもせず、踊り続けます。

頭に来た三人組の男は、道夫に絡もうと近づきます。それを見た洋一はゆっくり立ち上がり、三人の前に立ちはだかり、腰に隠していた拳銃を取り出すと、他の大勢の客がいる面前で真ん中の男を撃ってしまいます。

血を吹き倒れる男、店内はパニック状態。それをしり目に洋一と道夫は店を飛び出し、愛車のカマロを急発進させ、渋谷の街に消えていきます。

ある日、洋一は後ろ盾をしている暴力団大谷組の組長から、「本物のヤクザにならないか?」と誘いを受けることになります。一方、道夫は大谷から預かっていた麻薬に手を出し、組中のものから命を狙われることになります。

渋谷の街を舞台に逃げ惑う道夫と逃げる方法を考える洋一。二人を探す組の連中の緊迫した駆け引きが…。しかし、二人は組の連中に見つかってしまい…。

ラストでは柴田恭兵の迫真の演技が涙をも誘います。自由気ままな社会人のチンピラ二人の運命はどうなるのか?80年代の元気な日本を思い出しながらお楽しみください。

金子正二が書いた遺作となる脚本、ともすれば、重いテーマとなりそうな映画だったものを、川島透がかなりアレンジを付け加え、一流のエンタテイメントに仕上げた作品となっています。

何重にも仕掛けられたマジック『グランド・イリュージョン』

マジシャンたちの活躍を描いた映画です。マジックを題材にしたものですから、初めから最後まで、観客を騙す気満々で挑発してきます。大掛かりなマジックの種明かしを見せておきながら、実はそれよりもさらに大きな仕掛が待ち構えています。

監督は『トランスポーター』シリーズのフランス人のルイ・ルテリエ。2008年の『インクレディブル・ハルク』でハリウッド・デビューを果たします。

主演は『ソーシャル・ネットワーク』で世界中の映画賞を総なめにしたジェシー・アイゼンバーグがマジシャン・ユニット《フォー・ホースメン》のリーダ、ダニエル・アトラスを演じます。

また、このところ活躍がめざましいマーク・ラファロが《フォー・ホースメン》を追うFBI捜査官を演じています。『アベンジャーズ』のハルク役では、過去最高のハルクであると評価されています。

そして、重要な脇役も見逃せません。FBIに協力し《フォー・ホースメン》の種明かしをする老マジシャンに名優モーガン・フリーマン。《フォー・ホースメン》のスポンサーとなる大富豪に名優マイケル・ケインが脇を固めます。

これから観る方は、この映画にどこから騙されるのか、いや絶対騙されない!と強い意志をお持ちになってご覧ください。果たして、彼らのマジックに騙されずにいられるでしょうか。なお撮影協力に、日本でも有名なマジシャン、デビッド・カッパーフィールドが参加しております。

ルテリエ監督はインタビューの中でこう答えています。
「マジシャンは嘘をつかない人たちだ。彼らは最初に“騙すからね”と宣言してから、騙してくる。見ている方は仕掛け探しに必死で、目が厳しいんだ。大変な職業だと思う。」

カリスマ・マジシャンのアトラスをリーダーとした4人組マジシャン《フォー・ホースメン》は、ラスベガスでショーをしながら、遠く離れたパリの銀行から観客の一人に金を盗ませるというイリュージョンを披露。

しかし、これが単なるマジックであれば問題ないのですが、本当の金となるとショーの一部というわけには収まりません。そう、彼らは本当にパリの銀行から金を奪ってしまったのです。

捜査を開始するFBI。しかし、捜査陣はマジックの種を暴くことができません。そこで、サディウスという老マジシャンに捜査協力の依頼をすることになります。また、強奪被害に遭ったフランスからアルマ・ドレイというICPOの女性捜査官も来て、FBIと共に捜査に協力をするのですが…。

そして、この映画にはもう一つThe Eyeの存在を投げかけています。実は《フォー・ホースメン》が行うイリュージョンは、The Eyeからの課題でもあったのです。

それは、『不当な利得を取った人たちの金を奪い、貧しい人々に分け与えろ』という命を受け、これを達成したとき、伝説的な秘密結社The Eyeのメンバーになることができるのです。

果たして《フォー・ホースメン》は、その課題を達成できるのか、そして、The Eyeのメンバーとして迎え入れられるのか、そのあたりも見ものです。

そして、どんでん返しを迎えての衝撃の結末。いったい自分はどこから騙されていたのか…。気持ちよく騙されスカッとしてください。なお、続編も公開予定となっております。

このタイトルから想像つかない…『ビューティフル・マインド』

なにが凄いかといえば、この映画が実話を基につくられていることです。そして、その主人公となる人物は、2015年まで存命していて、最期は自動車事故で車外に放り出され亡くなりました。

監督は『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』のロン・ハワード。そのジャンルは、SFからミステリー、サスペンス、コメディ映画まで幅広く、マルチな才能を持ち合わせた監督です。

『グラディエーター』のラッセル・クロウが実在する人物数学者ジョン・ナッシュを演じます。その妻アリシアをジェニファー・コネリー。

そして、重要な脇役を、ポール・ベタニーとエド・ハリスが演じますが、この二人の存在がこの映画の要ともなります。彼らの役どころに驚くこと間違いなしです。

『ビューティフル・マインド』という、とても穏やかなタイトルですが、とんでもないどんでん返しが待っています。しかし、振り返ってみると、やはりラブ・ストーリーなのであろうという、着地点を迎えるのです。

アカデミー賞では、作品賞、監督賞、助演女優賞、脚色賞を受賞。ゴールデングローブ賞では、作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚本賞を受賞しています。間違いない傑作です。2001年製作。

1947年9月、ジョン・ナッシュは念願のプリンストン大学院の数学科に入学します。彼の研究の目的は「この世の全てを支配する真理」を見つけることでした。そして、一人孤独に研究に没頭します。

そんな彼の唯一の理解者はルーム・メイトのチャールズただ一人。周りから変人扱いされるジョンを、ときは励ましたり、ふざけたりと、ジョンの良き理解者として常に彼のそばについています。

脳裏が方程式で埋まっているジョンは、あるひらめきから「非協力ゲーム理論」という新理論に到達。アメリカの若き数学界のスターともてはやされます。そんなジョンも、やがて恋をし、結婚し、家庭を持ちます。

しかし、類いまれな彼の才能は国家政府に目をつけられ、ジョンはウィーラー研究所と呼ばれる軍事施設に採用されることになります。そこでは米ソ冷戦下での、敵国ソ連の通信の暗号解読という極秘任務に就くのでした。

諜報員バーチャーは、ジョンに雑誌に隠されたソ連の暗号解読を依頼します。ジョンはスパイとして、世界の危機を救うためその極秘任務に全身全霊を込めるのでした。

ときには極秘任務に対するプレッシャーに押しつぶされそうになったり、身の危険を脅かす目に遭ったりと、彼の精神は徐々に追い詰められていきます。サスペンス映画さながらの展開をします。

ところが映画の中盤で、信じられないようなどんでん返しを迎えます。観客も頭の中に「?」をたくさん浮かべたことでしょう。そして、映画の後半では、うって変わってジョン・ナッシュという数学者の功績を称える内容となります。

とにかく、これが実話を基につくられているといことが最も驚きます。人間の思考の深さ、不思議さ、天才には天才の苦悩があるということを悟ることができた傑作です。

ストレス溜めすぎ注意!教訓となる映画『ファイト・クラブ』

とてつもなく難解な映画です。よくぞこの作品を映像化したものだと思います。暴力的なシーンが多いため、そこばかりに話題が集中してしまいますが、この映画はそのようなテーマではありません。もっと複雑で現代のストレス社会に警鐘を鳴らすものです。

監督は『セブン』『ドラゴンタトゥーの女』『ゴーンガール』などの問題作を、次々と手掛けた奇才デヴィッド・フィンチャー。1999年製作。

キャストは、なぞの石鹸行商人タイラー・ダーデンを超大物俳優ブラッド・ピット。この役は彼にしかできないと思うほどのハマり役です。デヴィッド・フィンチャー監督とは『セブン』で組んでいました。

そして、もう一人。『真実の行方』で衝撃的デビューを果たしたエドワード・ノートンが主人公を演じます。周りを喰ってしまうほどの迫力ある演技に定評がある彼の演技も衰えておりませんが、それに感化されたのかブラッド・ピットの演技も大迫力のため、観ている側が映像に入り込んでしまい疲れるほどです。

役者の命がけとも思える演技力に陶酔してしまう映画です。主人公はエドワード・ノートンなのですが、最後のクレジットに注目して欲しいのです。この映画が難解と言われる所以です。こちらはご覧いただいてから、各自でご確認ください。

この映画にも多くのなぞが散りばめられていますが、その真相を知ったときのどんでん返しを迎えるのですが、それでもやはり難解のまま。人間の意思とはこれほどまでに複雑なものなのかと、考えさせられます。

物語は主人公の視点で進みます。主人公は自動車会社に勤務している平凡な会社員。経済的には何不自由ない生活を送っているのですが、不眠症という悩みを持っていました。精神科医からは、大きな不幸や苦しみを持った者たちの集いを紹介されます。

その集会に行き、人の不幸を聞いていると不眠症が解消され始めたのです。そんなある日、自宅が爆破事故に巻き込まれ、済むところを失った主人公は、飛行機で知り合ったタイラーという男に救われる。そして、タイラーは「力一杯オレを殴ってくれ」と頼み、主人公とタイラーは殴り合いを始めるのです。

以降、二人はときどき殴り合いをするようになり、その殴り合いに人々が参加し始めます。やがて、彼らは「ファイト・クラブ」と秘密の集団へと進化し「ファイト・クラブのことを決して口外するな」という誓いを立てるのです。

やがてファイト・クラブは、《騒乱計画(プロジェクト・メイヘム)》という破壊工作を実行するためのテロリスト集団へ変貌し始めます。主人公はそれを阻止すべくため全米を飛び回るのですが、逆にどの都市にも「ファイト・クラブ」が存在していることを知ってしまいます。

そして、再びタイラーが主人公の目の前に現れたとき、真相を知ることになるのですが…。主人公とともに真相を知ることになる観客。ところが、この真相を知ってからが、さらに難解なのです。ご覧いただいてどのような感想を持たれるかも、ひと様々だと思います。

この映画は、現代ストレス社会、物質至上主義、消費主義に警鐘を投げかけ、虚無に陥った人間が生きる実感を取り戻す方法を訴えたものかもしれません。ストレスは溜めすぎることなく、ほどよく解消して日々お過ごしください。