全編を通して流れる寂しく悲しい音楽。ストーリー展開はサスペンスでもあり、ラブロマンスでもあり、そして、どんでん返しを迎え、物語の真相を知ったときにやるせない悲しい気持ちになります。

しかし、この映画を再度観ようとすると、とても優しい気持ちで観てしまいます。こういう映画こそ、予備知識を持たずに素の状態で観てほしいものです。見事な脚本です。

『パッセンジャーズ』とは旅客機の乗客を意味します。飛行機事故で生き残った人々の葛藤、航空会社の隠ぺい工作など、たくさんのテーマを抱えながらも、多くの点が一本の線になったときに驚愕します。

飛行機事故という一見大掛かりな事故描写をさらっと見せて、登場人物のその後に焦点を当てるという手法で、サスペンス調に見せるシナリオはおもしろいアイディアでした。

監督はコロンビア出身のロドリゴ・ガルシア。あまり日本には馴染みがありませんが、ラブ・ストーリーや人間ドラマが得意の監督のようです。今回の『パッセンジャーズ』も、そのあたりをとても見事に表現していました。

主演は『プリティ・プリンセス』シリーズ、『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウエイ。『ダークナイト ライジング』では、アクションもこなし、すっかりハリウッドのトップ女優の地位を不動のものにしています。

今作でもアン・ハサウエイの魅力が全開です。まさに体当たりの演技で観る者を魅了してくれます。彼女を観るだけでも、この映画を観た価値があると思えるほど、素晴らしい演技を見せてくれます。

『死霊館』シリーズ、『インシディアス』シリーズで、最近オカルト映画の出演が多い、パトリック・ウィルソンが、飛行機事故の生存者の一人で、アン・ハサウエイ演じるセラピストのクレアに好意をよせるエリックを演じます。色男ぶりがぴったりです。

旅客飛行機の墜落事故が発生。奇跡的に5人の男女が生き残ります。その5人の精神的ストレスを治療するため、クレアは恩師からセラピストに命じられます。クレアは5人のグループ・カウンセリングを提案するのですが、エリックはそれを拒否し、個別のカウンセリングを希望します。

カウンセリングで得た証言から、事故はパイロットの人的ミスで起きたとする航空会社の発表と異なる証言を得たクレアは、事故は航空会社の過失であり、その隠ぺいがされようとしているのではと疑いを持ち始めます。

不審に思ったクレアは、事故の真相を探ろうとしますが、生存者が一人、また一人と消えていくこと気が付きます。そして、クレアは個別カウンセリングをする間にエリックとの愛が芽生え始めてゆくのでした。

信頼していた上司もがクレアの推測を否定し、信じられる者もいなくなっていくクレア。一人事故現場に戻り、真実に近づくエリック。やがて、航空会社のアーキンがクレアの前に現れて、「あの事故はパイロットの人的ミスだ」と改めて忠告し、ある物を置いて去っていきます。

彼が置いていった物、それは乗務員用のカバン。そして、その中にあったものは…。そして、クレアは事故の真相を知ることになるのです。アン・ハサウエイの迫真の演技に涙し、一気にエンディングを迎えます。

サスペンス映画でありながら、実に穏やかなエンディングを迎え、いい映画を観た…そんな気にさせてくれます。日本人の感性に合った結末なのかもしれません。こちらは二度観をおススメの映画です。一度観たあと観ると全く別テーマの映画にみえてきます。