もう大変な映画です。なにがどんでん返し、なにが事実で、なにが目的で…もう何もかもが分からないことだらけの映画です。その分からないことは、実は主人公の思考でもあるのです。映画好きな方なら、一度は観たことのある映画でしょう。

タイトルの『メメント』とは、思い出、記憶といった意味を持っています。この映画の主人子は前向性健忘という、数十分前の記憶を忘れてしまうという記憶障害の持ち主。その主人公が妻を殺した犯人を見つけ出すという、とてもハードルの高いミステリー映画です。

観客は主人公の立場に立たされ、事件解決のために前に進んだかと思えば、記憶が消えての繰り返しで、味わったことのないジレンマを感じることになります。おまけに脚本の時間軸が…。という難解なストーリーとなっております。

監督は『インセプション』『ダークナイト』シリーズのクリストファー・ノーラン。原作は、実弟ジョナサン・ノーランの短編小説です。しかし、よくぞこれを映像化したものだと感心します。ノーラン監督、自身2作品目の作品です。ノーラン監督はこの作品で数々の賞を受賞、ノミネートされ、一躍注目を浴びることになります。

主演は『タイムマシン』『不良探偵ジャック・アイリッシュ』シリーズのガイ・ピアーズ。記憶を失う主人公レナードに扮し、難しい役どころをものの見事に演じております。

そして、『マトリックス』シリーズのキャリー・アン・モスが主人公レナードを助ける(?)ナタリーを演じますが、このナタリーという女性が敵ではないのですが、味方とも言いきれない役どころ。

レナードは、自宅に強盗一味が入り、妻を殺害されてしまいます。レナードは犯人の一人を銃で撃ち殺すのですが、別の犯人に突き飛ばされ、その外傷と妻の死に対する衝撃が原因で、前向性健忘という記憶障害を持つようになってしまいます。

この障害は、発症以前の記憶は残っているのですが、それ(この事件)以降の記憶は数十分もすれば忘れてしまうもの。発症前にわずかな記憶を頼りに、レナードは妻を殺害した犯人に復讐を誓うのだが…。

失っていく記憶を残すためにレナードは、なにかあればポラロイドカメラで写真を撮り、メモを書き込む。そして、必要な情報は体にタトゥーを入れ、断片となった記憶を繋ぎ止めていきます。

体に刻まれた『ジョン・G』のタトゥー。この名前が犯人の名前らしい。この名前を追ってレナードは犯人を追跡していくのですが、謎は増えていくばかり、本当の味方はだれで、敵はだれなのか、そして事件の真相はどうなっているのか?主人公レナードとともに観客はフラストレーションが溜まっていきます。

走っているレナードが「今俺は追いかけているのか?それとも追いかけられているのか?」と自問するシーンがあり、なんともやり切れない思いをし、レナードに声を掛けたくなってしまいます。

やがて、観客には事件の真相が分かり驚くことになります。しかし、レナードはそれさえも記憶に残らず、やはり犯人を探し続けることになるのです。事件は解明されたように見えるのですが、実は謎が増えてしまったような…。巧みな脚本で、観客は騙されっぱなしなのです。

どんでん返しも何も、映画全編がどんでん返しの繰り返しで、どこを騙されているかさえも分からない…という衝撃の映画です。クリストファー・ノーラン監督にしてやられたという感じになります。